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かたい(堅・固・硬)とやわらかい(柔・軟)、食べ物での使い分け

和語の形容詞に関しましては、どの漢字表記が正しいのか、はっきりしない場合も多いようです。
平仮名書きでよいときもありますし、漢字表記にしたいときもあります。
掘り下げて調べてみました。
前置きの「和語の形容詞における即場面性・即文脈性」については、不要であれば読み飛ばしてください。

目次

和語の形容詞における即場面性・即文脈性

はじめに、前置きとして、和語の形容詞についてです。

この件については、主に『ベネッセ表現読解国語辞典』(沖森卓也・中村幸弘, ベネッセコーポレーション)に書かれていることを、参考にしました。

この辞典は、ことばの特性に応じて、もっともわかりやすいスタイルで解説、というのがコンセプトのようだ。出版社の特長とも言えるだろう。国語学習の途上にある高校生が対象と書かれている。

sugachi2.hatenablog.com

最初の見返しには、ことばの特性に応じて適切な手法で解説した、とある。

和語の形容詞について、次のようなことが書かれている。

対象によって、多面的にことばの意味合いを変化させるのが、和語の形容詞の特徴

形容詞は、場面や文脈によって、さまざまな表情を見せる。
そこで、出典のある用例を紹介し、多彩な表情を一望できるようにしたとのこと。

本題、かたい(堅・固・硬)とやわらかい(柔・軟)

試しに、本書で最重要語のひとつとしている「堅い・固い・硬い」を確認した。

「かたい」という和語には、次のような意味合いの変化がある。

  • 外部からの力に対して変形しにくい
  • 結合の状態が強く、容易に離れない
  • 柔軟性や適応性に欠けている
  • しっかりしていて、他に屈しない
  • 確実で信頼できる

「堅い・固い・硬い」のうち、どの漢字を使うのかも書かれていた。

これら5つは、さらに11に分けられている。
そしてそれぞれが、対象にするものを挙げているが、必要に応じて、ア・イ・ウとさらに細かく分け、用例を示している。
たとえば、「本来かたい物」「かたさに段階がある物」、等々。

そして、出典のある用例。

出典のある用例は、それぞれの小見出しに対応している。

「かたい」の項目では、13の用例が載っていた。
志賀直哉夏目漱石芥川龍之介宮沢賢治有島武郎島崎藤村・内田百閒・大江健三郎井伏鱒二倉田百三・長與善郎と名高い作家らの文章。
各用例は1~3文と長め。そのため、場面や文脈がわかりやすい。

対義語や類義語、漢語についても書かれている。

1のイは、対象が「かたさに段階がある物」。

これには、食べ物も含まれる。

漢字については、「堅い・固い・硬い」のすべてを認める立場を取っている。

用例は、「卵を固くゆでる」。

出典のある用例は、夏目漱石の『吾輩は猫である』。
「牛肉の堅くないところ」という表現を含む1文。

対義語は、当然、やわらかい、という和語。

試しに「やわらかい」を引いてみた。
「やわらかい」は一般語として扱われている。
「やわらかい」を漢字で書くと、「柔らかい・軟らかい」。

食べ物を含む用例が、2つあった。

「柔らかいパン」「野菜が軟らかくなるまで煮る」。

「柔らかい」と「軟らかい」という漢字の使いわけを確認するために、漢字部の「柔」を開いた。
次の通りであった。

柔 しなやかで、力に逆らわない。(力を加えるとすぐもとに戻る)
  対義語▶ 剛

軟 しっかりとした手ごたえがない。(力を加えるともとに戻らない)
  対義語▶ 硬

ここの用例には、「ご飯を軟らかく炊く」があった。

ここで思い出したのが、共同通信社の『記者ハンドブック』。

sugachi2.hatenablog.com

「やわらか・やわらかい」の項目に、次のようなことが書かれている。

柔 〔主に剛の対義語、しなやか、おだやか〕

用例の中に、次のような文がある。
柔らかい茎・葉・実・芽・布地・皮革

軟 〔主に硬の対義語、手応えがない、緊張や硬さがない〕

こちらにも、「ご飯を軟らかく炊く」があった。

そして最後に次のような解釈がある。

〔注〕食べ物は調理前の素材(肉や果実など)自体の性質は「柔」、調理の結果は「軟」だが、どちらかはっきりしない場合も多いので、平仮名書きでよい。

時事通信社の『用字用語ブック』を確認すると、「柔らかい」と「軟らかい」についての解説は同じような内容であった。ただし、共同通信社の『記者ハンドブック』の注意書きのようなことは書かれていない。

用例をみると、「柔らかい」には、『記者ハンドブック』に似た文があった。

柔らかい茎・果物・葉・実・芽、柔らかい布地・皮革・毛布

「軟らかい」には、「ご飯が軟らかい」のほかに、次の文があった。

「大根を軟らかく煮る」
「軟らかい肉」

他の国語辞典を見てみると、次のような食べ物を含める用例が載せられていた。

『角川必携国語辞典』

「この肉は柔らかだ」「柔らかいパン」「ごはんが軟らかい」「軟らかく煮たごぼう」(『角川必携国語辞典』大野晋田中章夫, 角川書店, 1995)

『角川必携国語辞典』は、漢字にも詳しく、書き順の記載もあり、漢和辞典的な要素もある。使い分けについての分量もあり、類語辞典的な性格も備える。大野晋氏は、類語辞典や古語辞典の執筆も多い。

対象については、高校生から一般社会人までとしている。収録語数は、52,000余語。外来語・専門語・新語・略語、それから故事成語・ことわざ・慣用句・四字熟語、人名・国名・地名・作品名・動植物名などを幅広く収載しており、百科事典的な役割もプラス。さらに古語・語源。言葉の縦横のつながりを重視している。文法、漢文の句法、助詞・助動詞なども充実。そのため高校生の学習に最適とのこと。(帯文より)

三省堂国語辞典第七版』

三省堂国語辞典第七版』(見坊豪紀・市川孝・飛田良文・山崎誠・飯間浩明・塩田雄大, 三省堂)では、「柔らかい」の意味のひとつとして、簡単に(かみ)切れるようすだ、という解釈を挙げている。
用例には「柔らかいパン・柔らかい肉」。この場合の対義語は「固い」。

 

広辞苑第七版』

広辞苑第七版』(新村出岩波書店)には、次のようなことが書かれていた。

「柔」は「剛」の、また、「軟」は「硬」の、それぞれ対語の意味で使われることが多い。「柔」は、力を加えて変形しても元に戻る場合、「軟」は、力を加えると変形しやすく元に戻らない場合によく使う。

 

このような解釈にとどめている国語辞典が多い。

最後に漢和辞典で確認してみた。
ただし、漢和辞典で調べても、使い分けについては、あまり進展はなかった。
もちろん漢字の勉強にはなる。

 

『漢字源 改訂第五版』

『漢字源 改訂第五版』(藤堂明保・松本昭・竹田晃・加納善光, 学研)を参照した。

学研のサイトを確認しところ、最新は改訂第六版。
商品仕様の欄には、辞書のレベルについて、次のような記載があった。
「中学生(上級),高校生(中上級),大学生,一般」

本書のポイントとして、次の5点を挙げている。

「初心者にも優しい!引きやすい工夫が満載!」「発信したい人に!文章を書く、漢字を書く、に役立つ!」「高校生に最適!用例で学習効率がアップ!」「親字数は、類書中最多!17,500字!」「漢字のなりたち・動植物名は、類書を圧倒する情報量」

漢字源 改訂第六版 | 学研プラス

話を戻します。

次のような記載がありました。

「柔」の意味については、「曲げても折れない。ねっとりしているさま。物や人などがしなやか。また人や風などがおだやか」。
対義語は「剛」。

「柔」は会意文字。「矛(ほこ)+木」で、ほこの柄にする弾力のある木のこと。曲げても折れないしなやかさを意味する、とある。

「軟」の意味は、「ぐんにゃりしているさま。かたい手応えがない」。
対義語は「硬」。

「軟」は会意兼形成文字。
また、「軟」の異体字は「輭」。
「耎(ゼン)」は、「而(やわらかいひげ)+大」からなる会意文字。やわらかでゆとりのあることを示している。
「輭」は意符「車」と音符「耎」で、車がやわらかく動いて、手応えのないことを示している。そして後に、「車」と「欠(かがむ)」とになったそうだ。