Literary Arts

世の中の動きと文学について

映画『岸辺の旅』生と死をテーマにした作品、夫婦の絆をストレートに表現

映画『岸辺の旅』は、夫婦の絆や人々との関わりを描いたヒューマンドラマ。あるいは、夫婦の愛を描く、大人のラブストーリー。死者との旅ではあるが、淡々と物語は進む。ホラーやミステリーの要素の強い作品ではない。原作者の湯本香樹実さんによると、ホラーっぽくなったところもあったが、何度も読み返し書き直し、バランスに気をつけながら、書き上げたとのこと。

瑞希深津絵里)の夫・優介(浅野忠信)は、3年前に失踪した。瑞希は、喪失感の中で、子供にピアノを教える仕事を再開。
そのような中、突然、優介が帰ってきて、自分は死んだと瑞希に告げる。3年ぶりの再開。驚きながらも受け入れる瑞希。この物語が始まる重要なシーンのひとつと言えるだろう。
そして優介は、二人で旅に出ないかと瑞希を誘う。それは、優介が失踪中の3年間にお世話になった人々を訪ね、彼らと夫婦で交流するとともに、瑞希と優介がお互いの愛を確かめあう旅となる。だが、追体験が終わり、二人の別れの時が近づく。

原作者の湯本香樹実さんは、文學界に掲載された作品が単行本として上梓される際のインタビューで、身近な人の死や脆くて不確かな世界、その中にあるたとえようのないほど懐かしいものを描きたかった、といった主旨の話をしたことがある。
また、湯本香樹実さんは、小説を書き始める際は、ストーリーの構成を決めずに、小説の核となるものが見えたら、書き始めるとのこと。それは映像として頭に浮かぶことが多く、時にはひとつの言葉や台詞だったりもするそうです。湯本香樹実さんによれば、その時が創作のピークであり、あとははっきりと決めずに書いていき、意外性があったほうが最終的には上手くいくと述べている。この作品では、団子の「しらたま」が発想のポイントのひとつ。

対して黒沢清監督は、プロデューサーに薦められて原作を読んだとき、画期的で映画的と感じたらしい。死者が戻ってくる話はよくあるが、生きている瑞希にとっては未来に向かって現在進行形で物語が進む。ただ、全編を通して、ストレートに夫婦の関係を貫くような小説であり、派手さはないため、どのような映画にすべきか、ちょっとした迷いはあったとのこと。
黒沢清監督が映画化した『岸辺の旅』は、湯本香樹実さんの同名の原作小説と同様に、死んだ優介が肉体のあるもののように描かれている。ただし、死者が消えてしまったり、生活していた幻影の家屋が、荒れ果てた現実の状態に戻ったりするシーンはある。本作は、第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞。