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村上春樹『螢』は大ベストセラー長編の下敷きになった短編小説

村上春樹氏の短編小説『螢』の初出は『中央公論1983年1月号』(中央公論新社)。また短編『螢』は、1984年に新潮社から刊行された短編集『螢・納屋を焼く・その他の短編』にも収められている。
『螢』は、長編小説『ノルウェイの森』(1987年,講談社)の第2章と第3章の原型だ。話の筋や構成だけでなく、描写なども、ほぼそのまま使っている場面が多い。ただし、すべて同じというわけではなく、部分的に会話や表現に手を加えたり、登場人物を増やし文章を書き足したりしいる。読み比べると、エピソードを追加したりブラッシュアップしたりしていることが分かる。

『螢』は、短編小説のため登場人物が少なく、「僕」の身に起こった出来事として書かれている。『ノルウェイの森』では、「彼女」を「直子」とし、「仲の良い友人」を「キズキ」というように名前を付けた。地理学専攻の同居人には「突撃隊」という渾名をつけた。そして主人公の「僕」の名前は「ワタナベ」。また、『ノルウェイの森』には「永沢」という先輩が登場するなどの違いもある。「永沢」は東大法学部の学生で、「ワタナベ」よりふたつ上。「突撃隊」と「永沢」は、「ワタナベ」と同じ学生寮に住んでいる。
地理学専攻の同居人は、学生寮の中では少し浮いた存在で、『ノルウェイの森』ではその事が強調されている。良く言えばきれい好きだが、潔癖症。ラジオ体操をすることを日課にしている。そして話すときに吃ってしまう。同居人は、女の子へのプレゼントにと、「僕」に螢をくれた。だが「彼女」は、「僕」のもとからすでに離れてしまった後だった。

上述した通り、短編『螢』は『ノルウェイの森』の第2章と第3章の原型。『螢』の主人公の「僕」は、彼女と会えなくなり、悲しみや後悔に打ちひしがれる。『ノルウェイの森』ではさらにショッキングな出来事が起こるのだ。