Literary blog

日常の出来事を綴る

松浦寿輝『花腐し』バブル崩壊から十年経った東京の古い木造アパートの一室

松浦寿輝氏の『花腐し』は第123回芥川賞受賞作である。初出は講談社の月刊文芸誌「群像」の2000年5月号。『花腐し』は、2000年7月に講談社から単行本として刊行されている。

単行本には、書き下ろし短編小説『ひたひたと』を併録。単行本『花腐し』の分量は150ページだが、短編『花腐し』のみの分量は102ページである。
なお、短編『花腐し』は、2017年発売の作品集にも収録されている。表題は『幽 花腐し』。全6編が収められ、文庫および電子書籍として発売されている。

『花腐し』の舞台は、バブル崩壊が始まってから、十年ほど経った東京。主人公の栩谷は四十代半ば。栩谷は不況を切り抜けてきたものの、共同経営者のずさんな経理が表に出て、借金が降りかかってきた。共同経営者とは、大学時代からの友達。その友達は、事態が明らかになる前に、逃げてしまっていた。

栩谷は、十数年前に二年間ほど祥子という女性と同棲していた。祥子は実家に帰省した際、高校時代の友達と泳ぎに行った海で亡くなっている。栩谷は、結婚も同棲もすることなく、今に至った。

物語は、栩谷が祥子の思い出を回想する場面から始まる。駐車場の軒下で雨宿りしていた栩谷は、雨の日の祥子との会話を思い出していたのだ。

栩谷は、ある理由で古いアパートへ向かっていた。実は栩谷は、このアパートの持ち主でもある、消費者金融の社長の小坂から頼まれて、ただ一人このアパートに住む伊関という男に会いに来た。
伊関は、バブル崩壊が始まった頃、多額の借金をした。伊関の部屋には若い女の子がいた。彼女は、歌舞伎町のキャバクラでアルバイトをしている、アスカという源氏名の女の子。

物語は、栩谷と伊関のやり取りを中心に、アスカも加わる。そして、栩谷の頭の中には、十年前に死んだ祥子のことが、誰かと会話しているときでさえよぎる。

取り留めもなく続く、栩谷と伊関の酒を飲みながらの会話。その中で、伊関が万葉集の一首を持ち出した。万葉集巻十春相聞に次の和歌が載っている。

春されば卯の花腐し我が越えし妹が垣間は荒れにけるかも