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村上春樹『一人称単数』短篇集その7「品川猿の告白」

主人公の「僕」が群馬の温泉地で一人旅をしたときの出来事とある。
この短篇は、口をきく猿が登場する話だ。
品川猿の告白』は、2005年に新潮社から発売された短篇集『東京奇譚集』所収の「品川猿」の続編。

その猿は、品川区の御殿山あたりに住む大学教授とその妻に育てられた。
現在は、主人公の「僕」が泊まることになった古びた温泉宿で働いている。
そして主人公の「僕」は、猿が口をきくことを不思議に思いながらも、冷静に品川猿から身の上話を聞く。
翌朝になると、猿と顔を合わせることはなかった。

主人公の「僕」は、東京へ戻ってからも誰にも品川猿の話をしなかったし、文章にもしなかった。
それは誰も信じないと思ったから。
主人公は物書きをしているようだ。
仮に事実として書くと、あまりにも突飛すぎていて、誰も信じないだろう、と主人公は考えた。
それから主人公は次のように語っている。

フィクションとして書くには、話の焦点と結論が今ひとつ明確ではない

編集者に見せても、困惑するだろうし、テーマについて訊かれるかもしれない、ともある。
主人公にも、テーマや教訓は、どこにも見当たらない。

それから5年後、主人公の「僕」は品川猿の話を裏付ける話を聞く。
そして、当時書き残しておいた覚え書きを元に、群馬県の温泉宿での奇妙な体験を書き起こした。

主人公の「僕」が品川猿と出会い見聞きしたことは、非常に奇妙で妄想のような話だ。
それを主人公の「僕」も自覚しているが、シリアスにまとめているところが面白い。