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村上春樹『一人称単数』短篇集その4「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」

語り手である主人公が、高校時代を回想するような展開で物語は始まる。
語り手の高校時代は1960年代半ば。
村上春樹氏の高校時代と重なる。
主人公がジャズとクラシック音楽が好きなことも、著者と同じだ。
この作品は、体験に基づいているかは別として、主人公の設定は著者との共通点が多い。

『ウィズ・ザ・ビートルズ』は、ビートルズの2作目のアルバムのタイトル名。
このレコードは、1963年にイギリスにおいて発売された。
ただし主人公の「僕」は、熱心なビートルズファンというわけではない。
前述したように、主人公は当時からポップ・ミュージックではなくジャズとクラシック音楽が好き。
その頃、ラジオからはビートルズの音楽が頻繁に流れていた。
本作では、ビートルズの音楽が隈無く取り囲んでいた、と表現されている。

小説のタイトルになっているが、『ウィズ・ザ・ビートルズ』についてはちょっとした思い出として語られているのみ。
それは高校の廊下で偶然すれ違った女の子が『ウィズ・ザ・ビートルズ』のレコードを持っていたというもの。
その後、その女の子との再会はなかった。
話は飛び、高校時代につき合っていた初めてのガールフレンドの話になる。

そして終盤は、主人公が35歳になった頃の話。
主人公は悲しい知らせを聞かされる。
話の展開は目まぐるしいが、繋がりはある。

主人公は高校時代を神戸で過ごし、東京の大学を卒業して、物書きになっている。
ストーリーは別として、村上春樹氏の体験を投影しているのかもしれない。