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村上春樹『女のいない男たち』タイトルどおりのモチーフの短編集

村上春樹さんの『女のいない男たち』は、2014年4月に文藝春秋から刊行された短編集です。この場合の「いない」は、「去られたり、失ったりして、いない」という意味合いで使われています。あるいは、去られようとしている男たちです。どの作品も人間関係の機微が巧みに描かれています。

 

本書には、『ドライブ・マイ・カー』『イエスタデイ』『独立器官』『シェエラザード』『木野』『女のいない男たち』の6編が収められています。登場人物や設定は異なりますが、全体的にまとまりのある短編集だと感じました。6編はそれぞれ次のような内容です。

『ドライブ・マイ・カー』は、俳優の家福が主人公で、妻は亡くなっています。家福は事情があり専属の運転手を捜していました。そして、修理工場の経営者から女性ドライバー・渡利みさきを紹介されます。家福は、スウェーデン車のサーブ900コンバーティブルを所有していて、みさきが運転するサーブの車内で、様々な会話をします。

『イエスタデイ』は、ビートルズの曲に、原詞とは似ても似つかない関西弁の歌詞をつけて歌う、木樽という男の話です。物語は、主人公の「僕」が大学2年生の時の出来語を回想する場面から始まります。「僕」と木樽はその時、二人とも20歳で、アルバイト先で知り合いました。「僕」は、木樽から妙な理由で幼馴染のガールフレンドを紹介されます。

『独立器官』は、美容整形外科医の渡会医師の話です。渡会は52歳の独身男性です。「僕」と渡会とはジムで知り合いました。「僕」は、渡会よりも少し年上で、物書きの仕事をしています。

シェエラザード』は、ベッドの中で興味深い不思議な話を聞かせてくれる女性の話です。「シェエラザード」とは『千夜一夜物語』の登場人物のことです。主人公の「羽原」は、その女性を「シェエラザード」と名付けました。ただ、彼女の前では、その名前を口にしません。

『木野』は、主人公の苗字であり、離婚後に開いたバーの名前でもあります。適当な名前を思いつけなかったので、店の名前を「木野」にしたのです。彼は、スポーツ用品を販売する会社に17年勤めていましたが、夫婦間の思いも寄らぬトラブルの後に、会社を辞めました。

『女のいない男たち』は、真夜中の1時過ぎに電話のベルが鳴り、「僕」が起こされる場面から始まります。ベッドには妻がいます。電話からは、男の低い声が聞こえます。彼は「僕」に一人の女性の死を告げました。
20頁ほどの分量の短い作品です。まえがきには、表題作がなかったので、象徴的な意味合いを持つ作品として書いたと、記されています。

初出は、「ドライブ・マイ・カー」が「文藝春秋」2013年12月号、「イエスタデイ」が「文藝春秋」2014年1月号、「独立器官」が「文藝春秋」2014年3月号、「シェエラザード」が「MONKEY」vol.2 SPRING 2014、「木野」が「文藝春秋」2014年2月号、そして「女のいない男たち」が書き下ろしです。

ただ、『ドライブ・マイ・カー』と『イエスタデイ』は雑誌掲載時とは少し内容が変更されました。
『ドライブ・マイ・カー』に関しては、実際の地名を別の名前に差し替えています。『イエスタデイ』に関しては、創作した歌詞を大幅に削っています。理由については、本書のまえがきに書かれていますが、本記事では省略します。

話は変わりますが、村上春樹さんは、短編を書く際、一気にまとめて書くことにしているそうです。
長編小説を書き下ろしで書くのが本来、体質に向いているらしい、と述べた上で、切れ切れに書いていると、調子が出ない、あるいは力の配分がうまくいかない、とおっしゃっています。
短編6、7本くらいを一度に集中して書けば、ちょうど単行本一冊分であることを付け加え、さらに次のように続けています。

そういう書き方をして都合の良い点は、作品のグループにそれなりの一貫性や繋がりを与えられることだ。(中略)特定のテーマなりモチーフを設定し、コンセプチュアルに作品群を並べていくことができる。

そして、本書のモチーフはタイトルどおり「女のいない男たち」。

村上春樹さんは、『ドライブ・マイ・カー』と『木野』の第一稿を書いた時点で、「文藝春秋」本誌に掲載を持ち掛けたそうです。
シェエラザード」の一編のみ、初出が雑誌「MONKEY」ですが、理由については本書のまえがきに書かれています。かいつまんで述べると、畏友・柴田元幸さんからの依頼があり、タイミングも良かったので受けたようです。
媒体の差異を意識して書いたが、モチーフは同じであり、連作のひとつであると、おっしゃっています。