文学の心得

言葉について考え、想像力を育み、人生をより豊かに

宇佐見りん『推し、燃ゆ』主人公には早く立ち直って欲しい

僕自身は、これまでの人生で、アイドルを強く推したという経験はない。好きな芸能人は誰か、と聞かれてもすぐに頭の中に浮かばないくらいだ。地方で生まれ育ち、のめり込んでしまうような機会も少なかった。 現実の世界に落胆して、誰かを憧れたり、応援した…

柴崎友香『春の庭』古いアパートでの出会いと懐かし記憶を辿る物語

柴崎友香さんの中篇『春の庭』は第151回芥川賞受賞作。初出は『文學界』2014年6月号。同年7月に文藝春秋より単行本が刊行されました。柴崎友香さんは、本作の出発点が実体験から想像を膨らませたものであることを、インタビューで明かしています。写真家が自…

柳美里『家族シネマ』場面々々が面白い小説、主人公・素美の家族と仕事の話

柳美里さんの短篇「家族シネマ」は第116回芥川賞受賞作。初出は『群像』1996年12月号。1997年刊行の単行本『家族シネマ』には、表題作のほか、『リテール』1996年春号掲載の「真夏」、『小説トリッパー』1996年冬季号掲載の「潮合い」、三篇が所収されている…

川上弘美『蛇を踏む』端的に言えば変身譚、筆力の評価が高い作品

川上弘美さんの短篇「蛇を踏む」は第115回芥川賞受賞作。初出は『文學界』1996 年3月号。同年に刊行された単行本には、表題作「蛇を踏む」のほか、『野性時代』1996年3月号掲載の「消える」および『文學界』1996年9月号掲載の「惜夜記(あたらよき)」の三篇…

川上未映子『乳と卵』大阪出身の女三人が織りなす物語

思春期を迎える女の子とその母親、そして語り手のわたし 川上未映子さんの『乳と卵』(ちちとらん)は、第138回芥川賞受賞作。川上未映子さんは1976年、大阪府生まれ。本作は、独特な大阪弁の文体で書かれており、それが小説としての面白さにもなっていると…

花村萬月『ゲルマニウムの夜』舞台は終戦後の東京都下の修道院

花村萬月氏の『ゲルマニウムの夜』は、第119回芥川賞受賞作である。初出は文藝春秋の月刊文芸誌「文學界」の1998年6月号。『ゲルマニウムの夜』は、1998年9月に文藝春秋から単行本として刊行された。単行本化の際、『ゲルマニウムの夜』から『王国の犬』を独…

吉田修一『パーク・ライフ』出会いは思いがけない場所で

吉田修一氏の『パーク・ライフ』は、第127回芥川賞受賞作である。初出は文藝春秋の月刊文芸誌「文學界」の2002年6月号。『パーク・ライフ』は、2002年8月に文藝春秋から単行本として刊行された。単行本には、「文學界」1999年8月号に掲載された『flower』も…

松浦寿輝『花腐し』バブル崩壊から十年経った東京の古い木造アパートの一室

松浦寿輝氏の『花腐し』は第123回芥川賞受賞作である。初出は講談社の月刊文芸誌「群像」の2000年5月号。『花腐し』は、2000年7月に講談社から単行本として刊行されている。 単行本には、書き下ろし短編小説『ひたひたと』を併録。単行本『花腐し』の分量は1…

石川達三『蒼氓』社会派作家の視線は民衆に向けられていた

石川達三氏(1905~85年)の『蒼氓』は、1935(昭和10)年の第1回芥川賞受賞作である。石川達三氏は秋田県出身の作家。作品の舞台は、1930(昭和5)年、神戸の国立海外移民収容所。これから900人以上の移民希望者が、ひと月半かけて、ブラジルのサンパウロ州…

古川真人『背高泡立草』島の歴史とゆかりのある家族

古川真人氏の『背高泡立草』は第162回芥川賞受賞作である。初出は集英社の月刊文芸誌「すばる」の2019年10月号。『背高泡立草』は、2020年1月に集英社から単行本として刊行されている。単行本で143ページの分量である。古川真人氏は1988年福岡県福岡市生まれ…

町屋良平『1R1分34秒』主人公の「ぼく」の人間性をどう思いますか?

町屋良平氏の『1R1分34秒』は第160回芥川賞受賞作である。初出は新潮社が発行している月間文芸誌「新潮」の2018年11月号。2019年1月に新潮社から単行本が刊行された。単行本で140ページの分量である。町屋良平氏は1983年、東京都生まれ。タイトルの『1R1分34…

上田岳弘『ニムロッド』謎のメールの展開と三人の関係

上田岳弘氏の『ニムロッド』は第160回芥川賞受賞作である。初出は講談社の月間文芸誌「群像」の2018年12月号。2019年1月に講談社から単行本が刊行された。単行本で136ページの分量である。上田岳弘氏は1979年、兵庫県生まれ。本作は、仮想通貨のビットコイン…

高橋弘希『送り火』なぜ苛めや暴力は起こるのか、どうすれば無くなるのか

高橋弘希氏の『送り火』は第159回芥川賞受賞作である。初出は文藝春秋が発行する月間文芸誌「文學界」の2018年5月号。2018年7月に文藝春秋より単行本が刊行された。単行本で120ページの分量である。 主人公は中学三年生の歩。父母と三人家族である。商社勤め…

石井遊佳『百年泥』人生は不特定多数の人々の記憶の継ぎ合わせ

石井遊佳氏の『百年泥』は、2017年に第49回新潮新人賞を受賞し月間文芸誌「新潮」に掲載され、第158回芥川賞を受賞した作品である。新潮社から単行本が刊行されたのは2018年1月。125ページの分量である。石井遊佳氏は1963年大阪府枚方市生まれ。 小説の舞台…

多和田葉子『犬婿入り』一軒家で学習塾を一人で経営する39歳の独身女性の話

多和田葉子さんの『犬婿入り』は、第108回芥川賞(1992年下半期)の受賞作です。多和田葉子さんは、1960年、東京生まれ。『犬婿入り』の初出は、講談社発行の月間文芸雑誌『群像』の1992年12月号。1993年2月に単行本として講談社から刊行された『犬婿入り』に…

遠野遥『破局』主人公の陽介が犯したそもそもの誤り

主人公の陽介は法学部に在籍し公務員を目指す大学4年生。陽介は、高校時代のラグビー部顧問である佐々木からの依頼で、母校のラグビー部のコーチをしている。陽介は強くて優しくて頭もいい学生で、大学生活は順風満帆。陽介が小さい頃にいなくなった父親は、…

高山羽根子『首里の馬』孤独なようで大胆にもなれる主人公の心温まる物語

主人公の未名子は、近所にある私設資料館で、資料整理などの手伝いをしている。職場ではなく、中学生のときから続けている手伝いを、社会人になってからも、仕事が休みの時に行っていた。手伝うようになったきっかけは、資料館の所有者である順が、学校にも…

又吉直樹『火花』 身を置くお笑いの世界を小説に

身を置くお笑いの世界を小説に 『火花』は、お笑い芸人の又吉直樹さんが2015年に芥川賞を受賞した作品です。又吉さんが、主要な文芸誌『文學界』でデビューするとあって、発売前から話題になっていました。反響は大きく、掲載された『文學界』2015年2月号や…

村上龍『限りなく透明に近いブルー』 舞台は作者が以前住んでいた街

作品の舞台は以前住んでいた街 『限りなく透明に近いブルー』は、村上龍さんが大学在学中に書いたデビュー作です。1976年に群像新人文学賞を受賞し、『群像』に掲載されました。そして、その年の芥川賞を受賞しました。 物語の舞台は、横田基地のある東京都…