Literary blog

読書や映画鑑賞などの記録

村上春樹『一人称単数』短篇集についての総括と世間の評判

短篇集は、文章の名手と言われるような、老練な作家が書くもの、という意見を聞くことがある。この考えからすると、村上春樹氏の短篇集『一人称単数』は正にその通りである。村上春樹氏本人は、短篇の創作を実験の場としている、といった発言をすることがあ…

村上春樹『一人称単数』作品を自由に楽しんでほしいとのこと

村上春樹氏は、高校生から短篇集『一人称単数』について質問を受けた際に、作品を自由に楽しんでほしい、と述べたそうだ。国語の設問で、主人公の心情や何を意味しているかなどを問われることがある。村上春樹氏は、これに否定的。著者の村上春樹氏本人も分…

村上春樹『スプートニクの恋人』22歳の女性の同性への恋と彼女が必要とする異性の友人

『スプートニクの恋人』は、村上春樹氏の9作目の長篇小説。1999年に講談社より刊行された書下ろし長篇小説である。単行本のページ数は309ページ。この小説は、「すみれ」という22歳の女性のことを中心とする物語である。すみれは22歳の春に初めて恋に落ちた…

村上春樹『四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて』

この長いタイトルの小説は、6ページで完結する、4、5千文字程度の短い短篇小説です。初出は『トレフル1981年7月号』。『トレフル』とは、伊勢丹主催のサークルで、会員に配布された非売品雑誌です。そして『トレフル』掲載の一連の短篇は、『カンガルー日…

村上春樹『螢』は大ベストセラー長編の下敷きになった短編小説

村上春樹氏の短編小説『螢』の初出は『中央公論1983年1月号』(中央公論新社)。また短編『螢』は、1984年に新潮社から刊行された短編集『螢・納屋を焼く・その他の短編』にも収められている。『螢』は、長編小説『ノルウェイの森』(1987年,講談社)の第2章…

村上春樹『国境の南、太陽の西』幸せなはずの「僕」が満たされない理由

『国境の南、太陽の西』は、村上春樹氏の7作目の長篇小説。1992年に講談社から刊行された。単行本のページ数は294ページ。章分けされており、1から15までナンバリングしてある。主人公は始(はじめ)という名前の男性で、物語は「僕」という一人称単数で語ら…

村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』34歳になった主人公の「僕」

『ダンス・ダンス・ダンス』は、1988年に講談社から、上下巻で刊行された書下ろしの長編小説。本作は、1979年から1982年にかけて刊行された、村上春樹氏の初期三部作の続編だ。主人公の「僕」は、原則的に同一人物である。村上春樹氏は、1979年に『風の歌を…

村上春樹『羊をめぐる冒険』僕は鼠と再会できるのか

『羊をめぐる冒険』は、村上春樹氏の3作目の長編小説。1982年に『群像』8月号に掲載され、同年に講談社より単行本化された。この作品は、野間三賞の一つである野間文芸新人賞の第4回受賞作である。野間三賞とは、「野間文芸賞」「野間文芸新人賞」「野間児…

村上春樹『1973年のピンボール』僕と鼠のその後

『1973年のピンボール』(講談社)は、1980年に発表された村上春樹氏の2作目の長編小説です。1980年の『群像』3月号に掲載され、同年6月に講談社より単行本化されました。第83回芥川龍之介賞候補および第2回野間文芸新人賞候補となりましたが、受賞はしてい…

村上春樹氏の世界観をインタビューや作品を基に考える

村上春樹という作家のおさらい 朝日新聞「平成の30冊」を発表、1位は村上春樹氏の長編小説『1Q84』 2009年にYOMIURI ONLILEの「本よみうり堂」に掲載されたインタビュー記事 2011年にニューヨーク・タイムズ・マガジンに掲載された村上春樹氏へのインタビュ…

村上春樹『風の歌を聴け』1979年発表のデビュー作

『風の歌を聴け』(講談社)は、村上春樹氏のデビュー作であり、その後の作品とも作風に共通点が多い。そういった意味で、村上春樹氏の原点となる小説とも言えるだろう。 村上春樹氏は、この作品で1979年の第22回群像新人文学賞を受け、作家デビューを果たし…

村上春樹氏の作家デビューと初期の長編小説

村上春樹氏の長編小説家としての歩み 村上春樹氏は自らを長編小説家として位置付けている。村上春樹氏の著作は、小説のほか随筆、紀行文、ノンフィクション、翻訳など多岐に渡っている。小説に関しては、短編や中編の小説を実験の場とし、得られたものを長編…

村上春樹『一人称単数』短篇集その8、書下ろしの表題作のテーマは人生の分岐点について!?

村上春樹氏の短篇小説集『一人称単数』に収録されている作品はぜんぶで8篇。書下ろしの表題作が8篇目にあたり、これで短篇小説集の8作品すべてが読了となった。

村上春樹『一人称単数』短篇集その7「品川猿の告白」

主人公の「僕」が群馬の温泉地で一人旅をしたときの出来事とある。この短篇は、口をきく猿が登場する話だ。『品川猿の告白』は、2005年に新潮社から発売された短篇集『東京奇譚集』所収の「品川猿」の続編。 その猿は、品川区の御殿山あたりに住む大学教授と…

村上春樹『一人称単数』短篇集その6「謝肉祭(Carnaval)」

主人公が50歳を少し過ぎたころの話とある。この短篇小説には、音楽ホールで偶然出会った10歳くらい年下の女性のことが書かれている。彼らはクラシック音楽を通して友だちになった。 その女性は、容貌は醜いが、話し上手で感じが良く話題は多岐、頭の回転が速…

村上春樹『一人称単数』短篇集その5「ヤクルト・スワローズ詩集」

村上春樹氏が神宮球場でヤクルト・スワローズの試合を観戦中に小説を書こうと決意したことは、ファンの間ではよく知られている話。村上春樹氏はヤクルト・スワローズの名誉会員にもなっている。 この短篇小説には、相当な日数、神宮球場に足を運んでいると書…

村上春樹『一人称単数』短篇集その4「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」

語り手である主人公が、高校時代を回想するような展開で物語は始まる。語り手の高校時代は1960年代半ば。村上春樹氏の高校時代と重なる。主人公がジャズとクラシック音楽が好きなことも、著者と同じだ。この作品は、体験に基づいているかは別として、主人公…

村上春樹『一人称単数』短篇集その3「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」

1955年に亡くなったジャズのサックス奏者をモチーフにした架空の話 「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」とは、実在しないレコードのタイトル名。主人公の「僕」は、大学生のときに架空のレコード批評を書いたことがある。非常識極まりなく感じる…

村上春樹『一人称単数』短篇集その2「クリーム」は哲学的

村上春樹さんの短篇集『一人称単数』の2作品目「クリーム」を読み終えました。 哲学的に感じる理由は2つ。 一つは、意気消沈して公園のベンチに腰を下ろす語り手の「ぼく」の前に突然現れた、老人の哲学的な話。 もう一つは、語り手の「ぼく」が、老人の話を…

村上春樹『一人称単数』8作からなる短篇小説集、その1「石のまくらに」を読んで

村上春樹氏の短篇小説集『一人称単数』が、文藝春秋から2020年7月18日に発売開始となった。短篇小説集の刊行は6年ぶりである。収録されている作品はぜんぶで8作品。文藝春秋の月刊誌『文學界』の2018年7月号から2020年2月号に掲載された7作品と書下ろしの1作…

村上春樹『1Q84』の世界観と執筆テーマを考えてみた

単行本3巻、文庫本で6冊からなる村上春樹氏の長編小説『1Q84』 村上春樹氏著作の『1Q84』のあらすじは複雑 『1Q84』の執筆動機は2つある 長編小説『1Q84』に込められた作家の意図 中心人物を代えながら繰り返される『1Q84』の全79章 単行本3巻、文庫本で6冊…

村上春樹『ノルウェイの森』 昭和の終わりの大ベストセラー

大ベストセラーとなった村上春樹氏による恋愛小説 書下ろしの長編小説『ノルウェイの森』は、1987年に講談社から上下巻で刊行されました。この物語は、僕という一人称単数で、主人公であるワタナベトオルの目線で語られていきます。物語は、主人公のワタナベ…

村上春樹『アフターダーク』 執筆のきっかけは大学時代に見たフランス映画

執筆のきっかけは大学時代に見たフランス映画 『アフターダーク』は、2004年に講談社から刊行された村上春樹さんの長編小説です。村上春樹さんは執筆のきっかけに、大学時代に見た『若草の萌えるころ』という映画を挙げています。『若草の萌えるころ』は、19…

村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』 主人公が語る過去の悲痛な出来事

過去の悲痛な出来事 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は、2013年に文藝春秋から刊行された村上春樹さんの長編小説です。 多崎つくるには、高校時代に4人の友人がいました。赤松慶、青海悦夫、白根柚木、黒埜恵理の4人です。4人の苗字には、色を…

村上春樹『騎士団長殺し』 登場人物の実生活での葛藤と奇妙な体験

実生活での葛藤と奇妙な体験が交差する物語 『騎士団長殺し』は、村上春樹さんの14作目の長編小説です。この作品は、2017年に新潮社から発売された書下ろしの長編です。 2部構成の小説で、第1部「顕れるイデア編」と第2部「遷ろうメタファー編」に分かれてい…