Literary blog

世の中の動きと文学について

川上未映子『乳と卵』大阪出身の女三人が織りなす物語

思春期を迎える女の子とその母親、そして語り手のわたし 川上未映子さんの『乳と卵』(ちちとらん)は、第138回芥川賞受賞作。川上未映子さんは1976年、大阪府生まれ。本作は、独特な大阪弁の文体で書かれており、それが小説としての面白さにもなっていると…

綾辻行人『時計館の殺人』シリーズ第5作は想像を超える大仕掛け

悲しみの連鎖が憎しみの連鎖となり惨劇を生む 館シリーズ第5作『時計館の殺人』<新装改訂版>を読了した。1991年9月に講談社ノベルスから刊行された新書判および1995年6月刊行の講談社文庫版は一冊に収まっていた。が、2012年の全面改訂にあたり上下巻二分…

藤原無雨『水と礫』物語を反復させながら広げていく章立てが特徴的な作品

藤原無雨(ふじわら・むう)さんの『水と礫』は第57回文藝賞受賞作。藤原無雨さんは、1987年兵庫県姫路市生まれ。ライトノベルでのペンネームは、マライヤ・ムー。この小説は、章立てに特徴がある。章の冒頭に「1」「2」「3」と数字が振られているのは普通だ…

村上春樹『猫を棄てる 父親について語るとき』世界を作り上げる大きな物語の、ごく微小な一部

村上春樹氏の著作『猫を棄てる 父親について語るとき』を読んだ。読みやすい文章で書かれているので、すらすらと一気に読み進めることができた。村上春樹氏はあとがきで、この文章で書きたかったことのひとつを挙げている。それは次のような内容だ。 戦争と…

木崎みつ子『コンジュジ』現実と妄想と伝記の三つが絡み合う重層的な構造の小説

木崎みつ子氏の小説『コンジュジ』は第44回すばる文学賞受賞作。木崎みつ子氏は1990年大阪生まれ。 この小説の主人公の名前は「せれな」。三人称で描かれている。冒頭には、11歳の少女がイギリス人のロックスター・リアンに恋をしたことが、書かれている。そ…

村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』夫婦の感情のもつれ、戦前の満州国

『ねじまき鳥クロニクル』は、村上春樹さんの8作目の長編小説。1994年4月発売の「第1部 泥棒かささぎ編」「第2部 予言する鳥編」、1995年8月発売の「第3部 鳥刺し男編」の3巻から成る。新潮社から刊行された。「第1部 泥棒かささぎ編」は、『新潮』(1992年1…

村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』二つ物語がパラレルに進む

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は、村上春樹氏の4作目の長編小説。本作は、村上春樹氏にとって初の書下ろしの長編小説である。1985年に新潮社から刊行された。 村上春樹氏は1949年1月生まれ。30代の村上作品である。初期三部作と呼ばれる、…

ノーベル賞作家・大江健三郎氏が初期に書いた短編小説

大江健三郎氏は1935年愛媛県生まれ。1994年にノーベル文学賞を受賞した。氏は東京大学文学部フランス文学科在学中から学生作家として有名になり、在学中に芥川賞を受賞している。 新潮社刊行の『死者の奢り・飼育』および『見るまえに跳べ』 第39回芥川賞受…

花村萬月『ゲルマニウムの夜』舞台は終戦後の東京都下の修道院

花村萬月氏の『ゲルマニウムの夜』は、第119回芥川賞受賞作である。初出は文藝春秋の月刊文芸誌「文學界」の1998年6月号。『ゲルマニウムの夜』は、1998年9月に文藝春秋から単行本として刊行された。単行本化の際、『ゲルマニウムの夜』から『王国の犬』を独…

吉田修一『パーク・ライフ』出会いは思いがけない場所で

吉田修一氏の『パーク・ライフ』は、第127回芥川賞受賞作である。初出は文藝春秋の月刊文芸誌「文學界」の2002年6月号。『パーク・ライフ』は、2002年8月に文藝春秋から単行本として刊行された。単行本には、「文學界」1999年8月号に掲載された『flower』も…

松浦寿輝『花腐し』バブル崩壊から十年経った東京の古い木造アパートの一室

松浦寿輝氏の『花腐し』は第123回芥川賞受賞作である。初出は講談社の月刊文芸誌「群像」の2000年5月号。『花腐し』は、2000年7月に講談社から単行本として刊行されている。 単行本には、書き下ろし短編小説『ひたひたと』を併録。単行本『花腐し』の分量は1…

石川達三『蒼氓』社会派作家の視線は民衆に向けられていた

石川達三氏(1905~85年)の『蒼氓』は、1935(昭和10)年の第1回芥川賞受賞作である。石川達三氏は秋田県出身の作家。作品の舞台は、1930(昭和5)年、神戸の国立海外移民収容所。これから900人以上の移民希望者が、ひと月半かけて、ブラジルのサンパウロ州…

古川真人『背高泡立草』島の歴史とゆかりのある家族

古川真人氏の『背高泡立草』は第162回芥川賞受賞作である。初出は集英社の月刊文芸誌「すばる」の2019年10月号。『背高泡立草』は、2020年1月に集英社から単行本として刊行されている。単行本で143ページの分量である。古川真人氏は1988年福岡県福岡市生まれ…

町屋良平『1R1分34秒』主人公の「ぼく」の人間性をどう思いますか?

町屋良平氏の『1R1分34秒』は第160回芥川賞受賞作である。初出は新潮社が発行している月間文芸誌「新潮」の2018年11月号。2019年1月に新潮社から単行本が刊行された。単行本で140ページの分量である。町屋良平氏は1983年、東京都生まれ。タイトルの『1R1分34…

上田岳弘『ニムロッド』謎のメールの展開と三人の関係

上田岳弘氏の『ニムロッド』は第160回芥川賞受賞作である。初出は講談社の月間文芸誌「群像」の2018年12月号。2019年1月に講談社から単行本が刊行された。単行本で136ページの分量である。上田岳弘氏は1979年、兵庫県生まれ。本作は、仮想通貨のビットコイン…

高橋弘希『送り火』なぜ苛めや暴力は起こるのか、どうすれば無くなるのか

高橋弘希氏の『送り火』は第159回芥川賞受賞作である。初出は文藝春秋が発行する月間文芸誌「文學界」の2018年5月号。2018年7月に文藝春秋より単行本が刊行された。単行本で120ページの分量である。 主人公は中学三年生の歩。父母と三人家族である。商社勤め…

石井遊佳『百年泥』人生は不特定多数の人々の記憶の継ぎ合わせ

石井遊佳氏の『百年泥』は、2017年に第49回新潮新人賞を受賞し月間文芸誌「新潮」に掲載され、第158回芥川賞を受賞した作品である。新潮社から単行本が刊行されたのは2018年1月。125ページの分量である。石井遊佳氏は1963年大阪府枚方市生まれ。 小説の舞台…

東野圭吾『放課後』、1985年に江戸川乱歩賞を受賞したデビュー作

『放課後』は1985年の第31回江戸川乱歩賞受賞作。女子高を舞台にした学園ミステリーである。東野圭吾さんは、この作品で作家デビューを果たした。『放課後』は、東野圭吾さんのデビュー作として、1985年9月に講談社から単行本として刊行された。単行本で308…

多和田葉子『犬婿入り』一軒家で学習塾を一人で経営する39歳の独身女性の話

多和田葉子さんの『犬婿入り』は、第108回芥川賞(1992年下半期)の受賞作です。多和田葉子さんは、1960年、東京生まれ。『犬婿入り』の初出は、講談社発行の月間文芸雑誌『群像』の1992年12月号。1993年2月に単行本として講談社から刊行された『犬婿入り』に…

東野圭吾『容疑者Xの献身』この世に存在することさえ知らなかった愛情表現とは

東野圭吾さんのミステリー小説『容疑者Xの献身』は、2005年8月に文藝春秋より単行本として刊行された。初出は文藝春秋の月刊小説誌『オール讀物』で、2003年6月号から2004年6月号、2004年8月号から2005年1月号に連載されていた。連載時の題名は『容疑者X』…

村上春樹『羊をめぐる冒険』僕は鼠と再会できるのか

『羊をめぐる冒険』は、村上春樹氏の3作目の長編小説。1982年に『群像』8月号に掲載され、同年に講談社より単行本化された。この作品は、野間三賞の一つである野間文芸新人賞の第4回受賞作である。野間三賞とは、「野間文芸賞」「野間文芸新人賞」「野間児…

村上春樹『風の歌を聴け』1979年発表のデビュー作

『風の歌を聴け』(講談社)は、村上春樹氏のデビュー作であり、その後の作品とも作風に共通点が多い。そういった意味で、村上春樹氏の原点となる小説とも言えるだろう。 村上春樹氏は、この作品で1979年の第22回群像新人文学賞を受け、作家デビューを果たし…

遠野遥『破局』主人公の陽介が犯したそもそもの誤り

主人公の陽介は法学部に在籍し公務員を目指す大学4年生。陽介は、高校時代のラグビー部顧問である佐々木からの依頼で、母校のラグビー部のコーチをしている。陽介は強くて優しくて頭もいい学生で、大学生活は順風満帆。陽介が小さい頃にいなくなった父親は、…

高山羽根子『首里の馬』孤独なようで大胆にもなれる主人公の心温まる物語

主人公の未名子は、近所にある私設資料館で、資料整理などの手伝いをしている。職場ではなく、中学生のときから続けている手伝いを、社会人になってからも、仕事が休みの時に行っていた。手伝うようになったきっかけは、資料館の所有者である順が、学校にも…

三木三奈『アキちゃん』徐々に明かされるアキちゃんの人物像

三木三奈さんの小説『アキちゃん』は第125回文學界新人賞を受けた作品。文學界2020年5月号(文藝春秋)に掲載されている。第163回芥川賞の候補作でもある。 小説『アキちゃん』は、一人の女性が小学5年のときに同級生だったアキちゃんのことを回想しながら語…

川越宗一『熱源』人生を全うしようとする登場人物の情熱

かつて樺太の地で起きた出来事を、史実に基づいて描いたフィクション 川越宗一氏の小説『熱源』を読みました。『熱源』は、2019年に文藝春秋から発行され、第162回直木賞を受賞した作品です。樺太(からふと、現在のロシア領サハリン)の地を中心に、明治か…

村上春樹『1Q84』の世界観と執筆テーマを考えてみた

単行本3巻、文庫本で6冊からなる村上春樹氏の長編小説『1Q84』 村上春樹氏著作の『1Q84』のあらすじは複雑 『1Q84』の執筆動機は2つある 長編小説『1Q84』に込められた作家の意図 中心人物を代えながら繰り返される『1Q84』の全79章 単行本3巻、文庫本で6冊…

カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』 遺伝子工学が齎した残酷な世界

仲間との絆、そして遺伝子工学が齎した残酷な世界 『わたしを離さないで』(原題:Never Let Me Go)は、2005年にイギリスで発表され、日本では2006年に早川書房から単行本が刊行された小説です。著者はノーベル賞作家のカズオ・イシグロさん。翻訳者は土屋…

又吉直樹『火花』 身を置くお笑いの世界を小説に

身を置くお笑いの世界を小説に 『火花』は、お笑い芸人の又吉直樹さんが2015年に芥川賞を受賞した作品です。又吉さんが、主要な文芸誌『文學界』でデビューするとあって、発売前から話題になっていました。反響は大きく、掲載された『文學界』2015年2月号や…

大江健三郎『万延元年のフットボール』 戦後の日本文学を代表する作品

戦後の日本文学を代表する作品 『万延元年のフットボール』は、ノーベル賞作家である大江健三郎さんの代表作の一つです。大江健三郎さんは、この作品で1967年の第3回谷崎潤一郎賞を受賞しました。度々、戦後の日本文学を代表する作品に挙げられています。199…