世界的なクラシック・ギタリストの蒔野聡史と、国際舞台で活躍するジャーナリスト・小峰洋子。本作は、この魅力溢れる二人の恋物語である。世界で活躍できるような、特別な二人の恋物語であるが、心を打たれる作品であった。 出会ったときの彼らの年齢は、蒔…
思春期を迎える女の子とその母親、そして語り手のわたし 川上未映子さんの『乳と卵』(ちちとらん)は、第138回芥川賞受賞作。川上未映子さんは1976年、大阪府生まれ。本作は、独特な大阪弁の文体で書かれており、それが小説としての面白さにもなっていると…
悲しみの連鎖が憎しみの連鎖となり惨劇を生む 館シリーズ第5作『時計館の殺人』<新装改訂版>を読了した。1991年9月に講談社ノベルスから刊行された新書判および1995年6月刊行の講談社文庫版は一冊に収まっていた。が、2012年の全面改訂にあたり上下巻二分…
映画『岸辺の旅』は、夫婦の絆や人々との関わりを描いたヒューマンドラマ。あるいは、夫婦の愛を描く、大人のラブストーリー。死者との旅ではあるが、淡々と物語は進む。ホラーやミステリーの要素の強い作品ではない。原作者の湯本香樹実さんによると、ホラ…
物語は笹部紬(ささべ・つむぎ)の幼少期から始まる。紬は、小柄で華奢、顔立ちが美人というわけでもない。そういった女の子ということもあり、親からは笑顔と挨拶を大事にし、優しくて明るい大人になりなさい、と言われる。そして、そのように振る舞いなが…
2020年のコロナ下、リアルタイムのお笑い芸人にスポットをあてながら 大前粟生さんの中編小説『おもろい以外いらんねん』は、笑いと差別をテーマにと依頼され、書き上げた作品とのこと。2020年のコロナ下、リアルタイムで現実でも起きているようなことをフィ…
藤原無雨(ふじわら・むう)さんの『水と礫』は第57回文藝賞受賞作。藤原無雨さんは、1987年兵庫県姫路市生まれ。ライトノベルでのペンネームは、マライヤ・ムー。この小説は、章立てに特徴がある。章の冒頭に「1」「2」「3」と数字が振られているのは普通だ…
冒頭のリアルな背景美術を目にした時点で、作品に引き込まれた。美しい映像や音楽は、神秘的な物語をより感動的にする。高い評価を受けるアニメーション映画の境地に納得させられた。劇中の音楽も感動的。音楽はやはり実際に聴いてこそ感動できるもの。 この…
村上春樹氏の著作『猫を棄てる 父親について語るとき』を読んだ。読みやすい文章で書かれているので、すらすらと一気に読み進めることができた。村上春樹氏はあとがきで、この文章で書きたかったことのひとつを挙げている。それは次のような内容だ。 戦争と…
木崎みつ子氏の小説『コンジュジ』は第44回すばる文学賞受賞作。木崎みつ子氏は1990年大阪生まれ。 この小説の主人公の名前は「せれな」。三人称で描かれている。冒頭には、11歳の少女がイギリス人のロックスター・リアンに恋をしたことが、書かれている。そ…
短篇集は、文章の名手と言われるような、老練な作家が書くもの、という意見を聞くことがある。この考えからすると、村上春樹氏の短篇集『一人称単数』は正にその通りである。村上春樹氏本人は、短篇の創作を実験の場としている、といった発言をすることがあ…
村上春樹氏は、高校生から短篇集『一人称単数』について質問を受けた際に、作品を自由に楽しんでほしい、と述べたそうだ。国語の設問で、主人公の心情や何を意味しているかなどを問われることがある。村上春樹氏は、これに否定的。著者の村上春樹氏本人も分…
村上春樹さんの『海辺のカフカ』は、2002年9月に新潮社から刊行された、書き下ろしの長編小説。村上春樹さんの長編小説としては、10作目となる。上下巻二分冊で刊行され、上巻が397ページ、下巻が429ページの分量。 『海辺のカフカ』は、15歳の少年が家出を…
『ねじまき鳥クロニクル』は、村上春樹さんの8作目の長編小説。1994年4月発売の「第1部 泥棒かささぎ編」「第2部 予言する鳥編」、1995年8月発売の「第3部 鳥刺し男編」の3巻から成る。新潮社から刊行された。「第1部 泥棒かささぎ編」は、『新潮』(1992年1…
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は、村上春樹氏の4作目の長編小説。本作は、村上春樹氏にとって初の書下ろしの長編小説である。1985年に新潮社から刊行された。 村上春樹氏は1949年1月生まれ。30代の村上作品である。初期三部作と呼ばれる、…
大江健三郎氏は1935年愛媛県生まれ。1994年にノーベル文学賞を受賞した。氏は東京大学文学部フランス文学科在学中から学生作家として有名になり、在学中に芥川賞を受賞している。 新潮社刊行の『死者の奢り・飼育』および『見るまえに跳べ』 第39回芥川賞受…
花村萬月氏の『ゲルマニウムの夜』は、第119回芥川賞受賞作である。初出は文藝春秋の月刊文芸誌「文學界」の1998年6月号。『ゲルマニウムの夜』は、1998年9月に文藝春秋から単行本として刊行された。単行本化の際、『ゲルマニウムの夜』から『王国の犬』を独…
吉田修一氏の『パーク・ライフ』は、第127回芥川賞受賞作である。初出は文藝春秋の月刊文芸誌「文學界」の2002年6月号。『パーク・ライフ』は、2002年8月に文藝春秋から単行本として刊行された。単行本には、「文學界」1999年8月号に掲載された『flower』も…
松浦寿輝氏の『花腐し』は第123回芥川賞受賞作である。初出は講談社の月刊文芸誌「群像」の2000年5月号。『花腐し』は、2000年7月に講談社から単行本として刊行されている。 単行本には、書き下ろし短編小説『ひたひたと』を併録。単行本『花腐し』の分量は1…
石川達三氏(1905~85年)の『蒼氓』は、1935(昭和10)年の第1回芥川賞受賞作である。石川達三氏は秋田県出身の作家。作品の舞台は、1930(昭和5)年、神戸の国立海外移民収容所。これから900人以上の移民希望者が、ひと月半かけて、ブラジルのサンパウロ州…
日本語の助詞・助動詞について深く学びたいなら、森田良行氏の『助詞・助動詞の辞典』をお薦めしたい。助詞・助動詞に関する疑問を、この一冊で解決できそうな内容である。助詞・助動詞については、わかっているようで理解できていないことが多いのではない…
一般的な国語辞典はアイウエオ順の配列。対して、類語国語辞典は、単語を体系的に意味別に分類して配列している。これは両者の大きな相違点だ。そのため類語国語辞典は、一般的な国語辞典のように五十音順では引けない。索引から引くことになる。 著者の一人…
「てにをは」とは 『てにをは辞典』はどういう本? 『てにをは辞典』には60万の結合語例が載っている 言葉の結びつきの法則を知ると文章は上達する 「てにをは」とは 「てにをは」とは、日本語の助詞・助動詞・活用語尾・接尾語など、文節の末尾に付く語の総…
報道関連の用字用語には、決まりや表記の基準のようなものがある。それを示したハンドブックが、共同通信社の『記者ハンドブック』や時事通信社の『用字用語ブック』。日本の記者の多くが、こういったハンドブックなどを基準にして記事を書いている。 これら…
4年前に Google Chrome を使っていて、左下に「プロキシ スクリプトをダウンロードしています...」とメッセージが表示され、開かなくなったことがありました。2016年の話です。OS は Windows10 を使っています。 Google Chrome「プロキシ スクリプトをダウン…
古川真人氏の『背高泡立草』は第162回芥川賞受賞作である。初出は集英社の月刊文芸誌「すばる」の2019年10月号。『背高泡立草』は、2020年1月に集英社から単行本として刊行されている。単行本で143ページの分量である。古川真人氏は1988年福岡県福岡市生まれ…
町屋良平氏の『1R1分34秒』は第160回芥川賞受賞作である。初出は新潮社が発行している月間文芸誌「新潮」の2018年11月号。2019年1月に新潮社から単行本が刊行された。単行本で140ページの分量である。町屋良平氏は1983年、東京都生まれ。タイトルの『1R1分34…
上田岳弘氏の『ニムロッド』は第160回芥川賞受賞作である。初出は講談社の月間文芸誌「群像」の2018年12月号。2019年1月に講談社から単行本が刊行された。単行本で136ページの分量である。上田岳弘氏は1979年、兵庫県生まれ。本作は、仮想通貨のビットコイン…
高橋弘希氏の『送り火』は第159回芥川賞受賞作である。初出は文藝春秋が発行する月間文芸誌「文學界」の2018年5月号。2018年7月に文藝春秋より単行本が刊行された。単行本で120ページの分量である。 主人公は中学三年生の歩。父母と三人家族である。商社勤め…
石井遊佳氏の『百年泥』は、2017年に第49回新潮新人賞を受賞し月間文芸誌「新潮」に掲載され、第158回芥川賞を受賞した作品である。新潮社から単行本が刊行されたのは2018年1月。125ページの分量である。石井遊佳氏は1963年大阪府枚方市生まれ。 小説の舞台…